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100 years ago

古過ぎる…!あまりに古くてモノラル録音!あまりに古くてノイズまみれ!あまりに古くてパブリックドメイン化!あまりに古くて原盤行方不明!そんな遥か過去に記録され忘却の中静かに眠る録音たち…それこそ、未だ聴かれざる未来からの響きであり、今こそ聴かれるべき音楽なのだ!と、言う強引な理念のもと、マニアの方でもドン引きするような太古のクラシック音楽録音をひたすらゴリ押しさせていただきたいと思います。トーマス・エジソンが集音ラッパに向かって「ハロー!」と叫び、その声が再生された瞬間から人類は失われた時間がリアルタイムで現在に甦る新しい世界を生きることとなったのです。その魔術的な魅力に憑りつかれようではありませんか。古ければ古いほど面白い!(諸事情により稀に比較的新しい録音を取り上げることもありますw)ではごゆっくりお楽しみくださいませ。

 

エディ・ブラウンと言ってもピンとくる方は少ないでしょう。1895年シカゴ生まれのヴァイオリン奏者です。幼くしてハンガリーに渡りブダペスト音楽院でフバイ(大教師です)に学び、後に今度はペテルブルグに行ってアウアー(大教師です)の門下となりました。ここに聴く録音が行われたのは1914年。彼がアウアー先生のもとをそろそろ巣立つか、と言った時期のもの。すでにデビューコンサートを行い大成功、大いに将来を嘱望されていた時期の演奏です。

 

いわゆる商業録音ではなく、録音を担当し伴奏ピアノも弾いている(なかなか達者)のは当時ヨーロッパで手広く商売をしていた富豪のジュリアス・ブロック氏。音楽好きの収集マニアで愛器であるシリンダー型録音機(円盤ではなく円筒型の蝋管を用いた録音再生が可能でポータブルという優れもの)を商売先に持ち運びその土地の大演奏家たちの演奏や会話を記録したのでした。

 

その膨大な記録の一部を復刻してCD3枚にまとめたのがこちら。

 

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The Dawn of Recording – The Julius Block Cylinders

http://tower.jp/item/2554477

 

「録音の黎明」!ぞくぞくするではありませんか!内容は期待を裏切らないどころか遥かに上回る内容。ピアノロール(自動演奏ピアノ用のロール型記録紙です。紙に点が打ってあるだけ。音そのものを記録する録音機とは残念ながら次元が違います)以外の録音は無いと言われてきた伝説的ピアニスト、アンナ・エシポワの紛うことなき演奏録音。ブラウンとは同門で言わずと知れた後世の大演奏家ハイフェッツ11歳時の愛らしくも端倪すべからざる演奏。歌の名花エレナ・ゲルハルトの名唱に伴奏するのは偉大な指揮者アルトゥール・ニキシュと言う豪華すぎるデュオ。モスクワ音楽院か誰かの私邸かチャイコフスキーやA・ルビンシテインらロシアの大物音楽家が集まり新型録音機を前に楽しそうに語り合う会話も面白い。

 

これらを復刻しリリースしたのは録音エンジニアのワード・マーストン。数々の古い録音の復刻を行い、無理なくしかも鮮やかな音質を復元するその手並みは神様級。自主制作レーベルも主催し他では声のかからないような仕事を自らせっせとやってくれるありがたいお人です。

至宝「The Dawn of Recording」も彼の自主レーベルからのリリース。一応まだ入荷しておりますがいつ品切れになるかわからない。このCDも発売即品切廃盤になったのですが、熱烈なアンコールに応えて異例の再プレスとなったものです(基本、Marstonレーベルは初回生産限定)。ご注文はどうかお早めに!

 

さて、若きエディ・ブラウンがドイツにあったブロックの自宅で録音を行ったのは1914年12月。クライスラーなど全部で8曲が遺されましたが、印象深いのはシューマンのピアノ曲を師匠アウアーがヴァイオリンとピアノのために編曲した「予言の鳥」暗い森に響く寂しげな鳥の鳴声、まるで不吉な未来を暗示するかのような気味の悪さ、そして出口のわからない森に迷う不安。ブラウンのヴァイオリンは、様々な技巧を凝らし高音から低音をトリッキーに跳躍する音楽を確かな技術で奏でています。中間部の重音奏法も見事。この年の8月。世界は第一次大戦に突入しています。「秋までには終わる」そう言われていた戦争は長引き、この録音が行われた冬になっても終わりませんでした。その次の年も。そのまた次の年も。

 

ライター / 伊藤圭吾

担当フロア 7F 「HOME」
担当ジャンル クラシック
出身地 静岡県
血液型 AB型
その他 初めて好きになった音楽は「ジャンボマックスのテーマ」だったような気がします。